Top Page研究内容ナノバイオデバイス

研究の背景と将来像

 我々の身体は無数の細胞から出来ています。そしてその細胞は無数の生体分子の 集合体であり,個々の生体分子の大きさはおよそ数nm〜十数nm程度のスケールの ものが一般的です。また一口に生体分子と言っても,構造を作るための建築材料と して働く分子もあれば,酵素と呼ばれるような様々な機能を司るまさに分子機械と して働いている分子もあり,多種多様(数万種類)な分子によって構成されている極 めて複雑なシステムといえます。こうしたバイオシステムでは,一度に数千種類以 上もの生体分子群が代謝活動の中で様々な化学反応を自立分散的な制御システム で高いロバスト性を維持しているのが大きな特徴で,システム制御の観点からはこ のような複雑な制御系をロバストに実現することだけでも驚異としかいいようが ありません。実際,数種の組み合わせの化学反応ですら安定に制御することが難し い現在の我々のテクノロジーからすると,想像も出来ないと言いたくなる正直なと ころです。
 こうした驚異的に小さく,複雑で,安定で,多機能な生体システムを自由に設計 して製作することが出来れば,我々の社会生活に非常に有用なアプリケーションが 枚挙に暇無く出てくるところが,バイオ・ライフサイエンスの将来像を考える上で の胸躍るポイントです。例えば,食べ物が「ほっておけば腐る」という状態は誰も が体験したことがあると思います。この現象は,様々な大気中の様々な微生物が繁 殖して食べ物を代謝・分解するからです。すなわち,こうした微生物のようなマイ クロ・ナノロボットをデザインして作ることが叶えば,まさに「ばらまいておくだ けで」ゴミからエネルギーや素材を作ったり,あるいは食料や薬を作ったりなど, 特に電気や熱などの外部エネルギーすら加えることなく実現する可能性を秘めて います。さらには飲み込むだけで,病気を治療してくれるナノロボットなども出来 るかも知れません。
 こうした未来技術の実現のためには,既に自然淘汰の中で最適化されている生体 システムをお手本として,そのデザインルールを知り,自由にナノシステムを作り 出す加工・製造プロセスの開拓が必須となります。生体システムには現在の我々の それとは異なる,あるいは大きく進んだテクノロジーの芽が眠っています。以下に, 簡単に列挙してみましょう.

制御

 分子機械を必要に応じて作ったり,あるいは分解・再利用したりなどしなが らシステムを維持するために働いている自律分散的な制御。

物質循環系の最適化

 生体内では上述のように動的な物質収支で必要になれば作り, 不必要になれば分解・再利用して,構造体の作製やエネルギー産生などリサイ クル&サイテイナブルといった物質循環系が最適化されている。これはミクロな エコシステムとしても非常に興味深い対象です。

デザインルール

 我々の物作りの基本は,まず設計図があり(全体像が分かる),大 きなものから小さなものを作っていく(大→小,トップダウン)のに対し,生体で は一見して全体を見渡す設計図が無く,小さな分子を結合させて大きな構造を 作っていく(小→大,ボトムアップ)ので,出来上がるまで最終的にどのような形 になるか分からない。

加工精度

 我々の機械加工は上述のようにトップダウン方式なので,分子1つ1つを 自由に並べて構造を作るようなテクノロジーまでには至っていません。化学合 成などの手法で分子をつなぎ合わせて生体と同様の加工精度を得ることは出来 ますが,機能性において圧倒的に低い。そもそも必要な機能を発揮させる分子 構造のデザインルール自体がよく分かっていない。

以上のように,バイオを機械の視点から研究することは,バイオを理解するための発 見的なサイエンスに寄与するだけでなく,それを通じて新しい物作りのあり方を 我々の社会に還元することに繋がると考えており,それらが我々の日々の生活にイ ノベーションをもたらすであろうと期待されるところが我々のモチベーションと なっています。

研究例

1分子を扱うツール群の研究

 ナノ加工技術を駆使して1分子を扱えるような超微細な道具(ナノツール)群を開 発し,1分子を操作したり分析する手法の研究を進めている。その先には,生体に 負けないようなナノマシン・ナノシステムを自由にデザインして作る未来技術への 展開を期待している。
 そのための重要な一歩として,個々の生体分子がどのような機能を有しているの か,どのようなデザインで設計されているのかなど,その構造や機能を調べるテク ノロジーが必要となる。これに対し従来のバイオテクノロジーでは,無数の分子が 分散された水溶液から得られる多数分子の時間・空間平均像を調べる手法が常であ ったため,生体分子の本質である「構造」=「機能」のダイナミクスに関する情報 が平均化の課程で失われしまい,その本質に迫ることが困難であった。ここでは, 我々が普段マクロな世界で行っているような「眼で見て」「手(ツール)で直接観察・ 操作・加工」するアプローチを1分子の世界に持ち込もうという研究であり,その 過程で1分子分析と操作のために究極の空間分解能を持つツール群を開発しようと いうテーマでもある。
 1例を挙げると,流路の幅や深さが1分子とほぼ同等のサイズとなる数〜数十nm の極めて微小な流路構造を作ると流路入口の開口が1分子サイズに近づくので,流 路の内部には1度に1分子ずつしか入り込めなくなる。従って,こうしたナノ流路は 1分子ずつが連続して流れる1分子操作・分析に最適な1分子の逐次処理の場として 利用することが出来る。我々は,こうした様々な1分子操作を実現する1分子プロ セッサーの実現に向けて,1)ナノデバイスを作るためのナノ加工技術の開発と共に, 2)ナノ流路内で1分子を操作したり分析したりする新手法の研究を進めています。

その他のテーマ

順次公開していきます。
  • JKA研究補助による成果

  • 外部との共同研究

    マイクロ流体デバイス内での細胞操作
    (東京大学,藤井研,酒井研との共同研究)

     細胞を扱うシステムを小型化して1つのチップ上に集積化し,細胞を培養して組 織化した細胞群の機能を調べたり,そうした細胞を利用して食の安全(食品添加物 の毒性試験など)や,環境汚染度調査,新規薬品のスクリーニングなどへの応用を 検討している。また単一つの細胞内部で時々刻々と進む生化学反応のダイナミクス を高い時間・空間分解能で分析するような研究を進めている。

    その他

    順次公開していく予定です。
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    Yoshino laboratory, Tokyo Institute of Technology.

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